京男もつらいよ!? 館鼻慕情〜風の果物屋
八戸で桜を二度見た
干し柿が風に揺れています。皮をむき、渋を抜いて、串にきっちり刺さって。ここまで手をかけた柿は、館鼻岸壁ではかえって珍しいくらいです。
「これが早生(わせ)ふじ、こっちが北紅(きたくれない)」
店のおじさんが、りんごの説明をしていました。八戸弁とも標準語とも違うアクセント。
もしかして、関西の人ですか?
茶目っ気たっぷりに肩をすくめたのが、上田耕三さん。生まれも育ちも京都です。お客さんならいざ知らず、お店を出している京都人に館鼻岸壁朝市で会うとは思いませんでした!
「桜を二度見たんだよ…」
それは8年前。仙台で運送業をしていた耕三さんは、あるとき東北自動車道で事故を起こしてしまいました。路面が薄い氷で覆われてできるブラックアイスバーンで、トラックがスリップしたのです。右足だけで5ヶ所を骨折。八戸市内の病院に緊急搬送され、病室の窓から「桜を二度見る」はめになったのでした。
運送屋の前は京都で呉服屋をしていましたが、「古いしきたりやなんか、性に合わん」と家を出た耕三さん。退院後はそのまま、八戸で店を始めました。今はフルーツの名産地・南部町(八戸の隣町です)に住み、館鼻岸壁朝市と畑仕事をなりわいにしています。焼酎をちびちびやりながら干し柿を作ったり、りんごの勉強をしたり、たばこを吸ったり。
「やもめ暮らしだからねぇ、気楽なもんよ」 ひとり気ままな暮らしを楽しんでいるようです。
朝市では、通りを行く人みんなに挨拶をします。
「挨拶は生きてる基本というかねぇ。挨拶くらい出し惜しみしたらいかんでしょう。おれなんて生きてるのがありがたいくらいのもんだし、よけいにね」
急になにやらいいことを言うので、ドキッとするじゃないですか。山田洋次監督の映画の登場人物みたいな人です。そういえば、寅さんの舎弟の登は八戸出身という設定だったような。登は八戸を飛び出して寅さんのところに行きましたが、耕三さんは故郷を飛び出して八戸に来たんでした。
右のポッケにゃ自由がある。左のポッケにゃ孤独隠して…。
美空ひばりの名フレーズをパクッて歌いたくなっちゃいます。お気に入りの「わかば」をくゆらせる耕三さんの横顔に、男の哀愁を感じたんです。
…八戸も、捨てたもんじゃないよね。
呟いたら耕三さん、京都なまりで返してきました。
「うん。いいとこだけどね。この寒さはなんとかなんないもんかねぇ」
耕三さん、それを言っちゃあおしまいよ!
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