そしてめぐる春。受け継がれる麺と朝市〜山形製麺所
漁船を背に停めた軽自動車。水色のバットにはうどん、そば、中華めん。
2013年の館鼻岸壁朝市が始まる日、「山形製麺所」はいつもどおり南部町から出店しました。
ただ、ご主人・山形勇蔵さんの姿だけがありません。
代わりにお店に立つのは息子の温勇(はるお)さんです。
1月10日、勇蔵さんが突然、病気で亡くなった―。
温勇さんが話すやいなや、周囲に人垣ができました。
大きな身体にめがね、いたずら小僧の笑顔とよく通る声が、勇蔵さんのトレードマーク。「朝市なう」にも登場してもらったことがあります。
常連さんはもちろん、初めて会う人でも「おはようさん!」と気さくに話しかけ、麺を買った人には、商売は大丈夫か!?って心配になるほどおまけして。
明るい勇蔵さんとのお喋りを楽しみにやって来るお客さんは、想像以上にたくさん。おじさんもおばあちゃんもお姉さんも、後から後から足を止め、口々に勇蔵さんを悼みました。
「僕で三代目なんですよ。親父の味と朝市の店、守っていかなきゃなぁと思って」
温勇さんの言葉に、人々が次々に声をかけていきます。
「また来るからね!」 「がんばれよ!」
帰りぎわ、うどんの袋に『製造者 山形勇蔵』の名前を見つけました。
パッケージの在庫がなくなるまではと、以前のまま出している商品だそうです。
地粉でできたそれは最後の1袋。手に取らずにいられませんでした。
勇蔵さんが残したうどんは地粉ならではの、少し茶色がかった素朴な色あい。
塩がきいていて、コシと歯ごたえがしっかりしています。
なんだ、お喋りばかりじゃなく麺作りも上手だなぁ…なんて、まったくもって失礼な見直し方をしてしまうほど、おいしいうどん。胃袋と心にしみました。
ごちそうさまでした、勇蔵さん。
心からご冥福をお祈りします。
そして温勇さん、これからもおいしい麺をよろしくお願いしますね。
誰の上にも春はきて、春がくるたび朝市もやってくる。
館鼻岸壁では今年もまた、こうして新しい歴史がつくられていきます。
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