坂の上の忍(耐)
中沢新一『なぜ、いま脳が注目されるのか~時代は芸術の再編を求めている』からの続き。
一方、日本では、1853年のペリー提督が率いる黒船来航から始まり、1868年の「五ヶ条のご誓文」発布でかたちとなった明治維新の大変革を行いましたが、産業革命も精神分析学もまだ到達していません。
ヨーロッパが何世紀にもわたって作り上げた近代化を、数十年で追いつき追い越せとばかりに急ごしらえで坂の上の雲をめざしてきたでしょう。
イギリス留学した文豪・夏目漱石さんがノイローゼになったように、人口の8割が農業者だった日本の暮らしがいきなり近代工業国家になっていくわけですから、これはしんどい。その過程で農村文化が身にしみついていた日本人の心は、石臼でひかれるような精神的な痛みと苦しみがあったはずです。
それからまたまた歴史の歯車がぎしぎしと回って、幾時代かがあって茶色い戦争(中原中也『サーカス』)がありました。
そしてバブルも泡と消えて、カワイイ文化が世界で人気の日本の今があります。
「日本の美の伝統を考えると、聖と俗の区別も明確ではなく、むしろ俗っぽいものの中に神聖なものを見つけようとする。日本の場合は、みんなキッチュ。そうした日本的状況が、世界的状況になりつつある。世界に認められる葛飾北斎には『たま』=スピリットがあり、日本人の中には『野生の思考』が脈々と続く」——と思想家の中沢新一さんは語っています。
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