菜膳わたすげ ふるさと昔料理 その五


秋の食卓。八杯汁のほかに、大根のがっくら漬け、鰯の塩漬け、切干し大根、しその実漬けが並ぶ

その年最初のきのこが採れると、食卓の真ん中に大きな鍋が上る。
 煮干だしの味噌汁にはカックイがたっぷり。
 阿房宮の黄色、白い大根おろしもきれいで、子どもたちは歓声をあげる。
 その名も「八杯汁」(はっぱいじる)。
 その昔、あまりのおいしさに一度に八杯も食べた人がいたことから、この名前がついたという。
 同じように「六杯汁」は、大根おろしをとろろに代えたもの。
 長いもをすったすり鉢に味噌汁を少しずつ加えて溶いていくと、滑らかな舌触りになる。
 炊飯器などない頃だ。お櫃をこたつに入れておくと、夕飯時には生ぬるくなっていた。
 だが熱々の八杯汁には、そんなごはんがちょうどいい。
 おかずなんかなくても構わない。熱々の汁をかけて思いっ切りかきこむ。
 菊の香りが鼻に抜け、煮干の風味にほっとひと息。
 シャキシャキの大根おろしとつるつるのカックイがおいしくて、あっという間にお椀は空になってしまう。
 おかわりをしながら、他のきょうだいに残りを食べられてしまわないか、子どもたちは気が気でない。
 競うように口に運ぶ。
 ついに鍋底が見える頃には、お腹は丸々と膨れ、長いものせいで唇が腫れあがってしまうこともあるけれど。
 ささやかな、でも大切な儀式。
 秋の恵みを飲み干せば、いつのまにかみんな笑顔になっているのだ。

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