月は何個ある?

 馬に跨がって必死で逃げている。追ってくるのは昔の西部劇に出てくるインディアンか、その逆で白人の騎兵隊だったか。集団は「安全、安心」とくり返しながら「全力で」追ってくる。逃げても逃げても追いつかれそうになる。突然、目の前に深い谷間、崖の向こうに行くためには大きく跳躍しなくてはならない。それでなくとも高所恐怖症だ。「無理無理無理……」と迷う間もなく馬は空中に躍り出ていた。馬の首にしがみついていると、何とか谷間を飛び越えて着地していた。

 「ようこそここへ、クック、クック♪」。大勢の人たちが「2020」のフラッグを振りながら歓声とともに迎えてくれている。「コロナを人類が乗り越えた証しの大祭典!」と選挙カーの大音量。「いやいやいや、崖の向こう側ではまだまだ受難は続いているし」と考えながら、同時に「谷1つ隔てただけでこれほど明暗が分かれるのか」と戸惑っていた。こっち側と向こう側、どっちがリアルな世界なんだろう。そもそも無事に着地したということ自体が錯覚で、本当は真っ逆さまに谷底に落下したのではなかったろうか。さもなければ、谷を越える途中で瞬間的に時間が止まって空中で宙づりになっているという状態なのか、と思ったところで目が覚めた――という夢を見た――という作り話。

 とは言え、そんな夢を実際に見たような気がするほど、五輪開催、ワクチンに関しての賛否を強迫され続けているような気分の毎日です。

 リーダーである同じ人物の同じ口から、右を向いては「(地域の)お祭り中止」、左に向いては「五輪(大きな祭り)は開催」と言われているようで、進むべきか進まざるべきか、それが問題だ、といきなりハムレットになっちまうのです。酒でも吞まなきゃやってられねーぜ、と思っても、居酒屋で酒類の提供禁止(緊急事態宣言の該当地域)……。お湯がない銭湯に入るとか、カラオケでは声を出さずに歌うとか、バッターボックスに立ってもボールを打ってはダメとか(まさかね)。村上春樹さんの『1Q84』は月が2つある世界でしたが、今夜にでも月が何個あるかを確かめなければ。

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