そのまんまの神様  梅佳代が、ばぁちゃんを撮る!  〜八戸レビュウ・レビュウ


八戸レビュー

2010年、夏。ぐうぜんに「八戸レビュウ」の案内を手にしたときから、それしか頭に浮かばなかったのです。
 八戸レビュウは、八戸ポータルミュージアム「はっち」のオープニングイベントとして行われた、写真家と市民のコラボレーション企画。
 88人のふつうの八戸人が、ふつうの人を―おもしろいと思う人を―取材して文章を書き、プロの写真家がその写真を撮ってくれるというものです。
 小学生のアホッぷり全開の「男子」、大好きなじいちゃんへの気持ちが泣けて笑える「じいちゃんさま」。
 梅佳代さんの写真は、ふつうの生活を切り取っているようでいて、自分では撮ることができないものばかり。
 大好きで、とくべつなもの。それは、私の「ばぁちゃん」への気持ちと同じなのでした。
 昭和7年生まれのばぁちゃんは、辛抱強くてハニカミ屋。黙々とはたらく東北人の典型のような人で、何事にも動じない強さも持っています。
 例えば停電のとき。みんなが大騒ぎしても、ひとり涼しい顔をしている。もしかして、と思い、「若い頃は電気なかった?」と聞くと、「いいや、あった」と淡々と答えます。
 でも、よくよく聞くと…。彼女が生まれ育った村は、川の水を使った水力発電だったので、水かさの減る夏は電力供給量も減り、電灯など蛍のともしび積む白雪レベル。
 電気が通ってはいるけれども、電気をアテにしてはいなかった、ということでした。
 ふいに、倉本聰のドラマ「北の国から」の台詞が浮かびます。田中邦衛扮する黒板五郎が、息子・純(吉岡秀隆)、娘・蛍(中嶋朋子)と東京から富良野に移り住む場面。新居(ていうか、小屋)に電気も水道もガスもないと知り、純が抗議します。
 「電気がなかったら暮らせませんよ~!!!」
 すると五郎「そんなことはないですよ」 また純「夜になったらどうするの!?」
 ここで五郎、キッパリと。
 「夜になったら寝るんです」
 単純明快、そりゃそーだ。
 祖母に同じ質問をしたら、同じ答えが返ってくるでしょう。
 節電がトレンドの今、時代の最先端には、黒板五郎とばぁちゃんがいる。

 そんなわけで(どんなわけで?)、ワークショップ、文章書きを経て12月16日、いよいよ撮影の日がきました。
 
 午後1時すぎ。ばぁちゃん、母、姉、甥と、ほぼ家族総出で待っていると、黒塗りの車が家の前に停まって、ショートカットの女性がトコトコ歩いてきます。
 キュートなマフラーを巻いて、もこもこブーツに小動物の瞳。
 『東京から来たえらいカメラマン』ぽくないのですが、首には確かに一眼レフを下げているので、木村伊兵衛賞受賞の梅さんです。
 「はじめまして~」が済むやいなや、玄関先で撮影が始まりました。
 憧れの人を前に私は感動しまくりでしたが、実はばぁちゃんには「知り合いが写真を撮りにくる」としか言ってなかったので、とってもリラックス。
孫ほどの年齢の梅さんを、最後まで私の友達だと思ってたみたいです。
「神だよね!」
 撮りながら、梅さんが言いました。どこにでもいる普通のばぁちゃん。
でも彼女の中に神様がいることを、私はずーっと知っていて、だから梅さんに撮ってもらいたかったんだけど、さすが、写真の神はばぁちゃんの神っぷりが分かるんだなぁ、などとぼんやり考えていると、「じゃっ!」と、風のように去りぬ。その間5分。妖精みたいです、写真の神。
 「文章ヲ手書キセヨ」と指令が下ったのは2011年2月22日。
2月26日が初日の展示で。え~!? 私、臨月間近なんですけど…と動揺しながらも、開催前日に作業です。
 ここで初めて梅さんが撮ったばぁちゃんの写真を見たとき、涙が出そうになりました。
 否、出ました。だって、そこにでっかく写し出されているのがあまりにも、いつものばぁちゃんだったから。
 梅さんの写真には、生命体の輝きが丸ごと写っている。撮られる人の心が見える気がする。なぜだろう!?
と思っていたら、レビュウのオープニングレセプションにて、謎が解けました。梅さんにお会いできたのです。
 再会した写真の神は、おっそしいほど敷居が低い。
 相手が偉くても偉くなくても、男でも女でも年寄りでも若くても、初めて会っても、誰の前でも「そのまんま」。たぶん相手が人間でなくてもきっと。
 なんでもない一瞬を切り取っている写真なのに、なぜかとてもドラマチックなのは、いのちってものが、もともととてもドラマチックだから。
 梅さんは、いのちの「ありのまま」を受け止める心を持っていて、だからいのちのパワーを「そのまんま」写真に込められるのでしょう。
 そういえばばぁちゃんも、ちょっとやそっとじゃびくともしない「そのまんま」な人。
 私が尊敬する人は、みんななんだか似てる、かもしれない。

 拝啓「そのまんま」の神様、私もいつか、あなたがたみたいになれるでしょうか…?

写真集は、森本千恵さんのアートディレクションも素晴らしいです。かっこいいのに、あったかい。
右が梅佳代さん。左が馬場。ともに1981年生まれ、同い年の神様と、友達風に記念写真を…。
「八戸レビュウ 梅佳代、浅田政志、津籐秀雄 3人の写真家と88のストーリー」/美術出版社/2,000円/企画・監修:八戸市[八戸ポータルミュージアムはっち]

馬場美穂子

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