五戸町で無農薬野菜作り。~はる農園 春 義彦さん・ 文子さん

20歳のとき、8年ぶりに藤崎を訪ねた文子さんは、その変わりようにショックを受けます。川が汚れ、森もりんご畑も減っていたから。このことをきっかけに、農業や環境に関心を持ちはじめました。
「『どげんかせんといかん』じゃないですけど、次の世代に残さないと。自然は〝借りもの〟。私たちが使いきったら申し訳ない」と文子さんは語ります。
 青森の自然を守りたいという文子さんの想いに、春さんも共鳴していきました。



(左)さまざまな野菜の種が育つビニールハウス
(右)今は一面雪に覆われていますが、土の下ではたくさんのいのちがスタンバイしています

「今は自然とか、なくては生きていけないものが経済優先の陰で減ってしまい、なくても生きてけるものが増えてる。経済成長も必要だけど、そろそろ戻さないと間に合わないんじゃない? 親世代が頑張って僕たちが裕福に過ごさせてもらった、その恩を返すのは、逆に自然を守ることなんじゃないかって。孫とかひ孫の世代に残してかなきゃならないっていう想いがあるんです」(春さん)。

小さな循環社会

「温度、水、光が大切。苗が赤ちゃんのうちは1℃の差でも影響が大きいので、特に気をつけて管理しています。大きくなってきたら水やりは少なく、なるべく外気に当てて過保護にならないよう管理していきます」
 芽を出したばかりの苗を一つ一つチェックしながら、春さんは言います。
 はる農園では去年、40種類以上の作物を、八戸の館鼻岸壁朝市やインターネット、産直で販売しました。ネット限定の野菜詰め合わせは生産が追いつかなかったほどの人気で、今年は収量を増やす予定です。
 そして、農園では農薬や化学肥料(化学合成物質)を一切使いません。作物の間隔をあけて病気のまん延を防ぐ。抜いた雑草を逆さまに置いて土を保湿するなど、薬に頼らない分、工夫して育てています。
 「人間が病気にかかることがあるのと同じように、作物に病気が出るのも当たり前。出ても自分で治す力を作物は持っていると思います。



その治癒力を作物が最大限発揮できる土づくり、栽培管理をしたい」と春さん。
 例えばネギは、病気の葉は自然に落ちて、元気な葉が出てくるといいます。
 作物の生命力は神秘的です。
「あの小さい種から芽が出て育つこと自体が不思議。学んできた言葉じゃ説明できない感覚で、説明しようとすると哲学的な表現になるんですよ」と、春さんを宮沢賢治の世界に連れていきます。
 そして肥料は、と春さんが大きな紙袋から取り出したのは、豆殻でした。大豆の緑・黒豆の黒・小豆の赤がきれい。ほかに米糠と、もみ殻を焼いて炭にした自家製燻炭、今年は地元産りんごの搾りかすも取り入れるつもりだそうです。
 「肥料が米糠なら米屋さん、おからなら豆腐屋さんが地元にいる。わざわざ外から仕入れなくても、地元にある資源を使って、それで作ったものを地元の人が消費するサイクルを作りたいんです」
 有機肥料を海外から1クリックで取り寄せることもできる。でも、大事なのは効率じゃない。はる農園が目指すのは、地域の資源が地域で活かされる、小さな循環社会です。
 手の届く範囲にあるものを、知恵をしぼって上手に使う。みんなが一生けんめい手間も時間も惜しまず考えて、働く社会なのです。



朝市での様子。

やっぱり、ふとっぱら




自宅近くのビニールハウスから車で数分行くと、真っ白な雪に覆われた約8ヘクタールの畑に着きます。20センチほども積もった雪を、カン、カンと固い音をたてて掘り起こしたその下に淡い黄緑色をした細長い麦の葉が顔をのぞかせました。
 雪の下でコートもマフラーも着けず、この麦はどっこい生きている。小さな奇跡を見る思いです。
 一方、隣の畑には長芋が埋まっています。6月に植えつけてネットを張り、収穫が始まる11月までの間は草取り、肥料の追加などの手入れです。長い時間です。収穫するときは、 一本一本手で掘っていきます。機械を使わないぶん、収穫にかかる時間は何十倍です。手間もかかります。
 でも、このご夫婦は手間も時間も惜しまず、笑顔で一生けんめい働くでしょう。
 2人の目の中には、思惑とか魂胆とか、余計なものは何もない。すがすがしい表情は、つねに生き物にふれる生活を送るからこそ得られるのかもしれません。
 やっぱりどこまでも「ふとっぱら」です。

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