菜膳わたすげ ふるさと昔料理 その四
8月、芋堀りが終わるとお盆がやってくる。親戚やご先祖様、訪問客を迎えるのに忙しい。
久しぶりに生家に集まった女たちは、庭に大鍋を出してテングサを煮始める。
約1時間。根気の要る仕事だが、お互いの近況、幼なじみの噂話…お喋りに花を咲かせるうち、いつのまにかテングサは溶けていく。
次は濾す。さらしの袋に入れて絞り、出てきた液体を容器に入れる。
分業で進めるから作業はスムーズだ。
井戸水で冷やし、固まったら出来上がり。
固さを確かめようと、庭で遊んでいた子どもたちが寄ってくる。
「もういいかな?」
指で突いては叱られるのが常だ。
「でも、いつ固まるのか未だに分からないのよねぇ」と、少女の顔に戻って康子さんは笑う。
ところてんの完成を待ちながら、子どもたちは蛍狩りに出かける。
みんな真新しい浴衣と下駄姿。
毎年、買ってもらった浴衣と「ごっぽ」(=ぽっくり・下駄の方言)をおろすのが楽しみだ。
お盆前にこっそり履いたりすれば、父や母のカミナリが落ちる。
捕ってきた蛍は、蚊帳に放して遊んだ。
扇風機やエアコンのない時代。
戸を開け放すと、吹き抜ける風が涼しい。
菰や迎え火の匂いに、お盆の風情が感じられる。
夕食の膳につくと、やっとところてんが出てきた。
このお盆のごちそう、長方形に切って天突きで突くと、透明な麺が「うにゅっ」
のどごし、つるり。
酢醤油でも美味しいし、黒蜜をかけると甘味に早変わり。
どちらにしても、あっという間にお腹に収まってしまう。
あんなに時間がかかったのに…と、当時のお母さんたちは思わなかっただろうか?
その儚さはまるで、短い北国の夏のよう。
大樽いっぱいのところてんを食べきってしまう頃、八戸には秋の風が吹き始める。
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