
何て奇妙:terribly strange
思想家・武道家の内田樹さんのブログで「『老いのレッスン』まえがき」を読んで思い出すところがあった。
内田さんが10代だった頃、1960年代の若者たちは「Don’ttrust over thirty:30歳以上のやつは信用するな」というスローガンを掲げていた。少し遅れてロックなど洋楽を聴き始めていた僕は、ただの無定見なノリで、そうなのか、30代の人間は信用しちゃダメだと、ツッパらかって世の中を斜めに見ていたような気がする。二十歳になるかどうかという頃で、ジャニス・ジョプリン、ジミ・ヘンドリックス、ブライアン・ジョーンズ、ジム・モリソンとか27歳で死んでしまうロックミュージも多かった。27クラブとか呼ばれて才能ある人間は27歳で死んでしまうし、そうでない人間は「くだらない大人」になるしかない、なんて勝手に切羽詰まっていたようなそんな頃を思い出す。
内田さんは「バカですね。自分がそのうち30歳になるということに気づかなかったんですから」と書いているが、本当にそうだ。
サイモンとガーファンクルのアルバム『ブックエンド』のテーマの歌詞には「70歳になることは何て奇妙(terribly strange)なことなんだ」の一節があり、聴いた当初は「70歳になるなんて何て恐ろしいことだ」と意訳していた。アルバムでは曲の前に「老人の会話」Voices of Old Peopleというニューヨークとロサンジェルスのさまざまな場所の老人ホームでの会話が収録されている。アート・ガーファンクルがテープ・レコーダーを持って録音したものだという。よく聴き取れなくて意味も正確には分からないが、老人たちがそれぞれ若かった頃を思い出し、「もう若くはなれないんだ。俺たちはもっと歳をとっていくんだ。それだけさI couldn’t get younger.I have to be an old man.That′s all.」と語る。
その頃の気分に立ち戻って、80歳を過ぎたボブ・ディランやミック・ジャガー、ポール・マッカートニーが今なお大きなステージでライブを続けている今を考えると、連続してつながっていないような気がする。まったく気がつかず、どこかにターニングポイントがあって、別な世界、オルタナティブな世界に迷い込んでしまったのではないかという気さえする。79歳のトランプがアメリカの王様のようにSNSで政策を発信する世界は、terribly strangeだとしか思えない。
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