ひとりの良さもあるとです。
最近、何十年も前の1人キャンプを思い返すことがあった。
それまでろくにキャンプなんかしたこともなく、道具も何もなくてというより、何が道具なのかすら分からなかった。今のようにキャンプ用品が100均でも売っているような時代ではなかったな。見よう見まねと言っても「ヒロシのひとりキャンプ」が動画で簡単に見られるなんて事もない。
とりあえず出かけて、キャンプ場探してテント張って野外に寝てみるだけでもいいかと、スポーツ用品店で1人用のテントを買って小さな車で出発した。
積み込んだ荷物は薄い紺色のシュラフ、コールマンのホワイトガソリンを使ったコンロ式のワンバーナーストーブと照明のランタン。食糧はインスタントラーメンで済ませようぐらいの雑さだ。足りない物があれば道路沿いのコンビニで買おうという時代ではないのだ。
そういえば米、味噌、醤油は持って行ったな。飯盒(はんごう)でご飯を炊いた(今どき飯盒ってどれだけ通用するんだろう? ネット検索したらAmazonでも売っていた。キャプテンスタッグ飯盒 メスティン 林間 丸型 兵式 ハンゴー 4合炊きが1,536円である)。ほかにマッチとかインスタントコーヒー、ウィスキー小瓶とか、気分を味わうために必須アイテム、文庫本。
7月初めの曇り空の下、海岸沿いの道路を南下し、出発が遅かったので岩手県普代あたりで夕刻になり、地図でキャンプ場を探して何とかたどり着いた。他に誰もいなかった。そのうち雨が降ってきて、焚き火しながらウィスキーをちびりちびりやりながら、文庫本を読む――というイメージはもろくも崩れさった。早めに薄っぺらいシュラフにもぐり込み、寝ようにも海鳴りの音が間近に迫って聞こえ、ただひたすら心細かった。一晩中まんじりともせず、そのうち鳥の鳴き声がし始めて明るくなってきた頃、小さなテントから這いずり出たら周囲は海霧(がす)に包まれていた。粗末な朝食を手近にすませて車に乗り込み、さらに南下し漠然と目的地としていた岩手内陸方面に右折した。
いつも行き詰まっているような人生だけれど、あの時も行き詰まっていたなと思い出す。けれど新たな場所に向かわなければという決意、身がまえも確かにあったような気がする。生活の実質って何かということに迷い、つまるところ衣食住、だったら1人で野外に行ってみたら分かることもあるに違いないと考えたのじゃなかったか。冬山登山に行ったわけでもあるまいに何を大仰に、と1人ツッコミしながら、それでも確かに分かったことは自分の非力さ、寂しさ、心許なさだったのだ。独りきりはやっぱり寂しいなと。
次の日の宿営地では親切なキャンパーに恵まれて、楽しいキャンプの醍醐味を味わって、それからしばらくはキャンプが趣味のようにもなったが、今はキャンプ道具の何一つ残っていない。
ひとりの良さもあるとですbyヒロシ。
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